私的なメモ帳―映画の感想とか本の感想とか―

パッチアダムスって映画が一番好き

ロレンツォのオイル

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 測定不能/100

あらすじ

ひとり息子であるロレンツォの難病を治すことの出来る医師が居ないと知り、オドーネ夫妻(夫オーギュストと妻ミケーラ)は医学的知識が無いにもかかわらず自力で治療法を探すことを決意。

治療法を見つけ出すため、もはや手の尽くしようがないと信じる医師、科学者、支援団体らと衝突する。しかし自らの意志を貫き、医学図書館に通い詰め、動物実験を参照し、世界中の研究者や一流の医学者らに問い合わせ、さらに自ら副腎白質ジストロフィーに関する国際的シンポジウムを組織するに到る。

死に物狂いの努力に関わらず、息子の様態は日々悪化する。次第に彼らが参加していた支援団体のコーディネーターからも疑いの念が抱かれるなか、彼らは食餌療法として特定のオイル(実際にはエルカ酸オレイン酸トリグリセリドを1:4の割合で配合したもの)に関する治療法を思いつく。100以上の世界中の会社に問い合わせた結果、適切な方法で蒸留することが出来る定年間近の英国老化学者を探し出す。

 

ロレンツォのオイルの医学的効果

副腎白質ジストロフィー adrenoleukodysprophy(ALD)は、ロレンツォが発症した1982年当時治療方法がまったくなく、診断されてから多くは2年以内に死亡することが多かった。オドーネ夫妻が考案した「ロレンツォのオイル」はオレイン酸エルカ酸の混合物で、ALDの病態である脱ミエリン化を起こす極長鎖脂肪酸(VLCFA)を低下させる一種の栄養療法である。

映画にあるように血中VLCFA値の低下作用は明らかだったが、治療効果については当時より賛否両論であった。多くの患児の両親が「ロレンツォのオ イル」を求めて争って投与したが、実際にはALD症状改善を認めることは少なかった。植物状態で死を待つだけだったロレンツォが「ロレンツォのオイル」に よって劇的に改善し、両親との意志疎通さえも可能となる映画のラストが感動的だっただけに、逆に多くの両親の失望は大きかったといえる。1993年の New England Journal of Medicineに「ロレンツォのオイルは無効である」という論文が発表されており、さらにEditorialで「医学は映画のように簡単にはいかない」 という痛烈な批判がなされたことが決定的だった。

映画の中で、両親の性急さをしばしば諌め、ALDの全患児に責任ある医師の立場として「ロレンツォのオイル」の臨床使用を断る、いわば「悪役」とし てのニコラウス教授のモデルとなったのは、ALDの世界的な権威であったProf. Mosarである。しかし実は「ロレンツォのオイル」が無効と言われ、詐欺師やインチキとまで批判されたロレンツォの両親を最後まで支持し擁護していたの がそのMosarだったのである。「オイル」の臨床試験を地道に続け、2005年に「ロレンツォのオイルはすでに症状が進行した患児には無効だが、血中 VLCFA値が高値を示す児の発症予防や症状軽減には有効」という画期的な論文を出した。現在では,スクリーニングによって発症前の患児を見つけ、早期か ら「ロレンツォのオイル」を投与して発症予防を行うというプログラムが北米では進められている。

 公平を期すためにロレンツォのオイルの効果にたいする疑義に対しても併記しておく。

 結果としては、全面的な効果を肯定するものではなかったが、「血中 VLCFA値が高値を示す児の発症予防や症状軽減には有効」という論文が出ている。